18歳以上を対象とした内容となっております。

性的表現の苦手な方・お子様はごめんなさい。

 

 ・答えは「己の拳」にあり続編です。

 

 

SFⅤゼネラルストーリー・エンディングより

 

 

過去・現在・未来

 

愛は時空を超えて

 

~さらなる永遠の旅へと~

 

 

 

 

呼吸が浅く、早くなってたことで気が付いた。ときに漏れ出す甘いつややかな声。一体、誰の?

 

 

 体中の神経が、一極集中して感覚を研ぎ澄ませて感じている妖艶なる悦び。なぜ?

 

 

 夢を見ているの? なのにこのリアルな声と快感は、何?

 

 

 夢ならば、もっと味わっていたい。だからまだ、眠りの世界にとどまっていたい。

 

 

 この感覚は、つい昨日初めて覚えた感触。ついに未知の扉を開けられてしまった別次元の悦びを、今また夢で思い出そうとしているの?

 

 

 あまりの快感にため息とともに発する吐息。まさか、わたしの?

 

 

 右の乳房の先端に感じる湿り気。何度もなぶられる柔らかな感触。・・・いいわ。すごくいい。もっと、して。

 

 

 これは「愛撫」というものよね? 女の泉を沸き立たせる愛のメソッド。覚えたて。なのにもう虜になってる。

 

 

 左の乳房も同時にまさぐられている。唇で吸い付きながら尖らせた頂を舌先で刺激されたら、たまらない・・・。

 

 

 「はァ・・・ン!」

 

 

 わたしの声!? でも、抑えられない!! 格闘家としては邪魔でさえあったわたしの重くて大きな胸。まさか自ら乳房を差し出しているなんて。

 

 

 チュッ、チュウ・・・チュパッ。

 

 

 そう、それをもっと、もっと・・・! わたしの乳首は恥じらいもなくせがんでる。ツン!と硬くそそり立たせて。

 

 

 そこを愛撫されると、わたしのいちばん奥にある秘密の部屋がうずくの。キュン、キュン!って。乳首が子宮とつながっていることは、昨晩初めて体験してわかったこと。

 

 

 わたしは昨晩はじめて固く閉ざされていた愛の回路が開かれた。わたしは乙女から女になった。

 

 

 開かれたばかりの愛の回路は、もうとっくに潤いを満たしている。

 

 

 さっきからキュンキュン下腹部が引き締まる感覚って、膣だったのね。ちつ。昨日痛みを感じるまでは、膣の存在なんて意識しなかったのに、今はこんなにもうずいてる。膣が本来の役割を知って、とうとう目覚めてしまった。わたしの眠りとともに。

 

 

 急に肌寒さを感じて鳥肌が立った。わたしの着衣はすでに乳房が露出した状態にされていたことに、初めて気づいた。目を開くと、彼誰時のまだ薄暗い部屋の中で、筋骨隆々の男がわたしの上にいた。彼は誰? 

 

 

 その姿の無防備さに、思わず目を疑った。だって、だって、この男、誰もが認める世界一強い男! あの孤高の格闘家が、赤ん坊のごとくわたしの胸に甘えているなんて!

 

 

 世界を救った最強の男が、隙だらけになっている。すきだらけ、好きだらけ。そう、好きで好きでどうしようもないくらい、大好きな男。

 

 

 母性本能がビンビンに感じちゃってる。最強の男を守ってあげたい欲求が湧き起こる不思議。女の本能を目覚めさせるのは、男の役割なのかもしれない。だからこそ、女は身体を許した男と子宮に宿した子にすべてを与えることができるのだろう。

 

 

 わたしが初めて身体を許したこの男の名はリュウ。わたしは彼を日本人格闘家としての一面しか知らなかった。

 

 

 唯一知っているのは、真の格闘家となるためにその身を捧げ、他の追随を許さぬ姿だけ。なのに一目見たときからどうしようもなく彼に惹かれるのは何故なのか、本当は自分でもよくわからない。

 

 

 昨日までの数日間、世界は混沌を極めていた。地球の上空に突如現れた黒い月の出現に、人類は恐怖に染められた。

 

 

 シャドルーは人類の恐怖をエネルギー源にしてサイコパワーを増大させ、この惑星を暗黒に染める計画を企てていた。現代のテクノロジーでは解明できない地球の前途を決定づける戦いが秘密裏に繰り広げられていたことを知る人類は、ごくわずかだ。

 

 

 その中で少数精鋭の戦士として最前線を戦った者はさらに一握り。その中で真打の格を備えた格闘家はたったひとり。リュウが闇の組織の支配者総帥ベガをついに倒したのだ。シャドルーはベガとともに崩壊し、地球の危機は免れた。

 

 

 そんな71億分の一の確率で出会った男が今、全力でその身をわたしにゆだねている。やっと、やっとわたしにたどり着いてくれた。その姿がこんなにも愛おしいなんて・・・。人類を救った最強の戦士の束の間の安らぎを、わたしが満たしてあげていることに、女として心からの幸せと悦びと、誇りを感じていた。思わず愛する男の頭をきつく抱きしめた。

 

 

 わたしの動作に気づいて胸の谷間から顔をのぞかせた最強の男は、いたずらっぽく笑った。

 

 

「悪い、起こしちまった」

 

 

 勝手にわたしを好きにしておいて、それはないでしょ!? だけどリュウの愛撫を存分に味わっていた自分も確かにいて、急に気恥ずかしくなった。

 

 

「とはいえ、まんざらでもなかったようだな」

 

 

「いじわる」

 

 

 思わず言葉になっていた。図星だったから。

 

 

「だけどな、春麗が俺の隣にいるんだぜ、放っておけるわけがないだろう?」

 

 

 そう言うと、リュウはわたしにキスをした。それから耳元で囁いた。

 

 

「ここ、気持ちいいか?」

 

 

 ビクン!と、わたしの身は弾んだ。なぜって、リュウの指先がわたしのいちばん敏感な女の芯の部分に触れたから。気持ちいいに決まってる。そんなことわかってるはずなのに聞かないで。気持ちいいのをこらえても、わたしの身体は甘い吐息とともに身悶えしてしまう。こんなときはいっそ、素直になってしまえばいいの? わたしの女の核はリュウの愛撫によってすっかり目覚めてしまった。

 

 

「あァ・・・ハァハァ・・・んんッ! ァアン・・・ッ!!」

 

 

「かわいいぜ、春麗。すごくいい顔してる」

 

 

 リュウは今まで誰にも見せたことのないわたしの姿を見て喜んでいる。わたしの陰核はリュウの舌による愛撫ですっかりむき出しにされ、ガードはすべて外されてしまった。わたしの弱点を責め続けるなんて、リュウらしくないじゃない。でもその刺激、本当はまだやめないでほしいの。わたしは必死に恥ずかしい姿を見られまいと抵抗するけれど、あえぐ声が漏れ出ちゃう。涙を浮かべて息を弾ませているわたしに、リュウはまた、耳元で囁いた。

 

 

「もう入ってもいいよな?」

 

 

 素直にコクン、とうなずくと、リュウはもう一度キスしてから笑みを見せた。ああ、この笑顔には勝てないわ。

 

 

 十分に濡れ、ふくよかになったわたしの女陰に、硬くそり立ったリュウの雄々しい男根があてがわれると、ぬめりを帯びつつも締まった膣のひだをきつそうにかき分けながら中に沈んでいった。

 

 

「ああ・・・リュウ・・・」

 

 

 わたしの中に、大きくて力強いリュウがいる。あんなに遠くにいて見つめあうことさえなく、触れることさえできなかった孤高の男が、わたしのなかの空洞を埋めるように確かにいる。太くて立派な脈打つ存在がわたしの奥を強く突き上げると、互いの指も絡ませ合った。わたしたちは、ひとつになった。

 

 

 開通したばかりの愛のサーキット(回路)。昨晩はぎこちなかったけれど、今朝はコース(体位)を変えながら愛の周遊を心から楽しんだ。

 

 

 リュウはわたしを腹ばいにさせてうしろから膣を攻めつつおしりの感触を確かめたり、わたしを馬乗りにさせて上下に弾む乳房をもてあそんだりして、いろんなコースを楽しんでいた。

 

 

 その一方で、わたしの身体のあらゆる部位に舌を這わせながら、わたしの弱点を調べるのに夢中になっていた。リュウは禁欲的なのではなくて、愛する女には懸命に愛を与えようと尽くしてくれる男性なのだとわかった。

 

 

 おかげでわたしはリュウに触れられるだけで、快感しか感じられない身体になってしまっていた。理性が吹き飛んで、何も考えられない。けれどわたしの膣は異物であるはずのリュウの太く猛々しい男根を常に内側へ内側へと飲み込もうとキュンキュン締め上げ続けている。もう捕まえて離さないとばかりに。これが「イク」ということなの!? 

 

 

 わたしは昨晩セックスを体験したばかりだというのに、昔からリュウを知っているかのような情熱的なセックスがどうしてできるのかが不思議だった。もしかしてこれが「相性が良い」ということなの? とにかく、どうしようもないくらいにリュウと溶け合いたい欲求がそうさせるのかもしれなかった。

 

 

クチュッ、クチュッ・・・。

 

 

 まだ夜が明けきっていない静かな空間で、卑猥な音が耳にまとわりつく。お互いの体液を混ぜ合わせるような、粘膜と粘膜の擦りあう音。リュウは激しくわたしを衝き上げるたびにその音を掻き立てている。

 

 

「ウッ・・・!! ・・・ハァ、ハァ・・・」

 

 

 リュウは息を荒げながらも、戦いの最中には決して見せない感情の高ぶりを時折見せてくれる。動きを止めては、身体を奮わせてこらえている姿がとてもセクシーでたまらなくなる。あなたもわたしと同じように快感に悶えてるのね。その姿を瞼に焼き付けたくて、目を開けた。

 

 

 赤いハチマキから解放された男は、これまで律していた欲求と感情の扉を全開にしているのがわかった。全身からほとばしる汗。額からはすでに汗が滴った幾筋の跡。

 

 

 一度解放した欲求はもう本人でさえ抑制が効かなくなっている。愛の交わりは真剣勝負と何一つ変わらない。リュウは全身全霊をかけて、わたしの最も深い部分をめがけて衝き続けている。

 

 

「チュンリー!!」

 

 

 ああ、リュウがわたしの名前を呼んでくれるなんて! 今のリュウは、身も心もわたしで埋め尽くされている。強くなることと闘うことでいつも頭がいっぱいだったあのリュウが、わたしでいっぱいになっている。リュウがわたしの名を呼ぶだけで、わたしの子宮はどうしてこんなにも反応しちゃうの? 

 

 

 いいわ、あなたを全部受け止めてあげる。両手をリュウの背中へ回して目で訴えると、リュウはうなずいた。

 

 

「ああ、リュウ!!」

 

 

 わたしは快感を突き破ってしまい、とても言葉にならない。だけど身体は膣と両脚でリュウを思いっきり締め上げていた。リュウはわたしの子宮にすべてを託すかのように精魂を振り絞った。わたしの下腹部は、リュウの愛で満たされていくのを感じていた。

 

 

 まるで全力疾走したかのようなリュウの激しい呼吸ともに発せられる、白い息。リュウの上半身からは湯気がゆらめいていた。早朝の冷え込みは、熱くなったリュウの身体をクールダウンさせるのに都合がよかったようだ。

 

 

 わたしはまだ、余韻に浸っていたくてそのまま身体を横たえてリュウを見上げていた。勝負を交わした後のような、すがすがしいいつものリュウだった。

 

 

「素晴らしかった。ありがとう」

 

 

 そう言って、わたしにキスをしてくれた。リュウはいつだって拳を交えた相手に礼を欠かさない。愛を交し合ってさえもその姿勢は変わらない男だった。どこまでも礼儀正しく相手を尊重してくれるリュウの人となりに、わたしの心は鷲掴みされてしまっていた。

 

 

 わたしはリュウと別々になりたくなくて、思いっきりリュウに抱き着いた。リュウはそれを察してくれたのか、一体になったままわたしの上体を抱き起こし、汗ばんだ分厚い胸と太い腕できつく抱きしめてくれた。

 

 

 わたしたちは互いの目を見つめあうと、深いキスをした。舌に吸い付いては絡ませ合う饒舌で情熱的な、記憶に刻み込むかのような熱いキスだった。やがて互いの唇は身体とともに離れた。わたしのなかに、リュウの余韻を残して。

 

 

 なぜかとめどなく涙があふれてきた。リュウはわたしの突然の涙に気づいて、その指先で涙を拭いてくれた。

 

 

 わたしはリュウと交わした肉体と魂の歓喜によって、遺伝子の記憶を取り戻してしまっていた。

 

 

「リュウ、わたし、本当にうれしくてどうしようもないのよ。でも、思い出してしまったの。あなたとの過去を」

 

 

「過去?」

 

 

「ええ。まさかと思うわよね。話しても、きっとわからないわ」

 

 

「聞かせてくれるか? 春麗」

 

 

 リュウは片時もわたしを離すまいとするかのように、わたしの肩を抱き寄せた。わたしはリュウに身をゆだねながら、涙のわけを話すことを決めた。

 

 

「わたしとあなたは、何度も過去世で愛し合ってたの。でも、何度出会っても、ついに結ばれなかった。

 

 

 ある人生では、わたしは古代の巫女で、あなたは神官だった。聖職者は生涯独身でなければならないのが宿命だったの。あるとき、王がわたしを愛してしまった。王は掟を破ってわたしを妾にしようとしたの。

 

 

 わたしはあなたとの愛を引き裂かれる前にせめてもの証をと、内密にあなたの子をおなかに宿したの。

 

 

 王は妊娠した子が自分の子でないことを知っていた。王はわたしに子を産ませた後、自分の母乳を与えることさえ許さず、子を失った若い母親に引き取らせたの。わたしはあなたと我が子を失ったショックでその後すぐに、死んでしまったの」

 

 

 リュウはずっと、静かにわたしの言葉を聞いていた。しばらくして、リュウは何かを思い出したかのように語りはじめた。

 

 

「おまえの死を聞かされた俺は、深い悲しみから立ち直れずに、生涯を孤独のまま閉じたんだ。今度生まれ変わったときは、必ずおまえを探し出して一緒になることを魂に刻み込んでな。

 

 

 その因果なのだろう。俺はその後の人生で王の敵対者としての人生を何度も生きた。戦いの人生の連続だった。時の王は俺の血脈が王の座を覆すことを恐れて、幼い俺を出家させたこともあった。時には雲水、時には修験者として生涯独身を貫かざるを得ない人生を生きてきた。

 

 

 俺はずっと渇望感でいっぱいだった。今生でもそうだった。何かを取り戻したい。その何かがわからない。ただひとつだけわかっていたのは、失った何かをこの手で探したいという魂の衝動だけだった」

 

 

「わたしも同じ。巫女として生きたころの悲しみは、ずっと続いていたの。子どもに恵まれない人生、家族がいても失う人生。それは今生でも繰り返された。

 

 

 でも、あなたを一目見たときに魂が震えたの。なぜかわからない。でも、わたしはあなたをずっと待っていたような気がする。それなのに、あなたはいつも遠くを見ていて、わたしに気づかなかった」

 

 

「昨日、春麗とはじめて握手したときに奇妙な感覚があった。俺の魂が目覚めたような。それがきっかけだったのだろうか。俺の殺意の波動はベガに感化されることなく鎮まっていた。

 

 

 俺は春麗と出会って、探していたものが何だったのかがやっとわかったんだ。どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。探していたものがこんなに近くにいたというのに」

 

 

 リュウはわたしの涙の跡が残る頬にキスをしてからやさしくなでた。大きくて、温かい手だった。わたしはその手をそっと包み込むように重ねた。

 

 

「俺のこの手はおまえに触れることをしないで、拳をふるうことしかできなかった。今はもっと触れたくて仕方がない。もっともっとおまえを知りたくてたまらないんだ。今もおまえを離したくなくてどうしようもない」

 

 

「わたしもよ。もうすぐ別れなきゃいけないと思うと、よけいに離れられなくなっちゃう」

 

 

「ずっとおまえを抱きしめていたい。おまえは俺の一部であり、すべてだから」

 

 

「ああ、リュウ・・・」

 

 

 あの寡黙なリュウとは思えない言葉に、わたしの魂はふるえた。けれどそれが嘘偽りのないリュウの心からの言葉だと思うと、喜びと感動と、感謝の思いがまぜこぜになって涙がとめどなくあふれてくる。いつも遠いところを見ていたリュウ。その目はいつだって、魂の記憶を頼りに、わたしを探してくれていたのだった。

 

 

「わたしたちは出会っただけじゃなくて、愛し合わなくちゃいけなかったのよ。不思議なの。あなたに抱かれているとき、子宮が懐かしさを感じていたような気がしていたから」

 

 

 魂の記憶を取り戻すためには、わたしたち二人の肉体の交わりによってなさなければならないしくみがあったのだと、今ならわかる。おそらく、セックスをすることでしか感じることのできない肉体と魂の悦びが、固く閉ざされていた記憶の鍵を開けたのだと思う。

 

 

 リュウはわたしを抱きしめたまま、黙り込んでいた。きっと、時空を超えて再会を果たしたこの時を、永遠のように感じていたのかもしれない。わたしと同じように。

 

 

 わたしたちは、窓からの陽ざしがまぶしく差し込んでいることに気づいた。わたしたちの魂の奥底では、長く暗かった闇夜の時代が明けて、光輝くまぶしい太陽の時代を迎えたことを感じ取っていた。祝福のときを、ふたりで迎えることができた記念すべき日だった。

 

 

 身支度を済ませると部屋の鍵をかけ、ともに階下に降りた。わたしたちは別れの時を笑顔で迎えることを決心しあっていた。 

 

 

「元気でな」

 

 

 リュウはそう言って、手を差し出した。わたしは笑顔でリュウの手を握った。昨日は出会いの握手で、今日は別れの握手。たった一日だけで、わたしたちは深く愛し合い、肉体と魂の融合を果たし、記憶を取り戻すことができた。言葉は要らない。ただ、見つめあって微笑みあうだけで分かち合える。わたしたちは、そんな間柄に「戻った」のだった。

 

 

「春麗、おまえはこれからどうする?」

 

 

「シャドルー壊滅作戦の最後の仕事を終えたら、上海に帰るつもりよ。あの女の子の身元も調べなくちゃならないから」

 

 

「そういえば、あの子はどうした?」

 

 

「かりんさんに保護してもらっているの。今からあの子に会いに行くわ。あなたは?」

 

 

「俺はもといたところにいったん戻るよ。片付いたら、きっとおまえに会いに行く」

 

 

「ええ。あなたを信じてる」

 

 

 リュウはわたしにキスをした。やさしくて切ない長いキスだった。「愛してるよ」なんて気の利いた言葉を最後まで言ってくれなかったけれど、どんなにわたしのことを深く愛してくれていたかを、わたし自身がいちばんわかっていた。だって、こんなにも愛を感じてる。まぶたが震えるくらいに。

 

 

 やがて互いの唇はゆっくりと離れた。

 

 

「なあ、春麗」

 

 

「なあに?」

 

 

「・・・いや・・・なんでもない」

 

 

「言って!」

 

 

 わたしは詰め寄った。リュウは観念した。

 

 

「・・・あの女の子、なんとなく春麗に似ていたと思ってな。かわいい子だった」

 

 

 極まりが悪そうなリュウがなんとなくおかしくて、つい笑ってしまった。

 

 

「笑ってごめんなさい。あの子、きっとあなたのことが好きよ。それだけは言えるわ」

 

 

「何でわかる?」

 

 

「女の勘よ」

 

 

「弱ったな、俺は春麗が好きなんだが」

 

 

「ふふっ、小さなライバルかもしれないわね」

 

 

 わたしたちは、笑いあって別れたのだった。

 

 

 

 

 

 わたしは神月邸の門前でタクシーを降りると、神月かりんお嬢様の側近がすぐさま近づいてきた。

 

 

「春麗さま、お待ち申し上げておりました」

 

 

「遅くなってごめんなさい」

 

 

 足早に神月邸の庭園をくぐり抜けると、ガイルがいた。

 

 

「来たな。ゆっくり休めたか?」

 

 

「ええ」

 

 

「今度はあいつをしっかり捕まえておけよ。刑事らしく」

 

 

 ガイルはサングラスを外してわたしにウインクした。ずっとリュウへの思いを隠してきたつもりだったけれど、ガイルにはとっくにばれていたんだと、このときわかった。

 

 

 シャドルーが壊滅し、ベガもいなくなった今、もうガイルと手を組んで一緒に行動することもなくなるんだと思うと、素直な自分でいたいと思った。

 

 

「残念だけど、もう彼を捕まえておく必要はなくなったの」

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

「彼の方から会いにきてくれるから」

  

 

 ガイルにはきちんと伝えておきたかった。リュウとは愛で結ばれた仲に変わったんだということを。

 

 

「あの男なら大丈夫だ。これからは、うんと幸せになれよ、春麗」

 

 

「ありがとう」

 

 

 今までどんなときも見守ってくれていたガイル。時には同志として、時には兄として、そして時には父親としてのまなざしを向けてくれていたことをわたしは知っていた。

 

 

そんなガイルの言葉が、とてもうれしかった。

 

 

 そこへ、側近を引き連れたかりんお嬢様がやってきた。

 

 

「リュウさんはどちらへ?」

 

 

 かりんさんがわたしに聞いてきた。

 

 

「彼はもといたところに戻って行ったわ」

 

 

「あの方らしいですわ。いちばん最後に来られて、人類の大決戦を見事にクリアーされたというのに、何もおっしゃらずに帰られたなんて」

 

 

「あいつは立派に役目を果たした。これからは俺たちの仕事だ」

 

 

「その通りですわ。そこで春麗さん、今度はあなたにしかできないお役割がございます。こちらへいらして」

 

 

 案内された先は、神月邸の客室が並ぶ一室だった。豪華絢爛な大広間と違って、簡素で落ち着いた空間だった。

 

 

「かりんさん、女の子の様子はどうなの?」

 

 

「ご安心を。昨晩はよく食事を召し上がったあと、入浴されてすぐに眠られましたわ。今もまだ眠っておられるようですわ」

 

 

「そう、安心したわ。怖い思いをさせてかわいそうだったから」

 

 

「少女だとは言え、彼女は天才ハッカーですわ。彼女、わたくしたちには一切質問に答えてくださらないのです。これは責任ある重大な機密事項なのですから、ことの詳細を調査しておく必要がございます」

 

 

「そうね。あの黒い月を造ったテクノロジーは、アメリカ軍でさえも制御できないものだった」

 

 

「ええ、神月家でさえも知りえないテクノロジーでしたわ。このことを春麗さん、あなたに調査していただきたいのです」

 

 

「わかったわ」

 

 

 なぜか自分ならあの女の子の口を開かせることができるような気がしていた。

 

 

「では、少女の客室へとご案内させていただきますわ」

 

 

 わたしはすでにはやる気持ちを抑えられなくなっていた。あの女の子のためなら、何でもしてあげたい気持ちになっていた。

 

 

「この部屋で眠っておられます。春麗さんなら彼女を驚かせることはないでしょう。どうぞお入りになって」

 

 

 そこにはベッドで寝ている女の子がいた。テーブルには朝食が置かれてある。わたしは椅子に座って女の子の寝顔を見ていた。この子の年齢はいくつなのかしら。両親はどこにいて、何をしているのかしら。実はこの子の捜索願が届けられていないのが気になっていた。そういえば名前もまだ聞いていなかった。

 

 

「そこにいるのは、誰?」

 

 

 女の子の声だ。起きていたの?

 

 

「わたしよ、メローペの駒の持ち主だった者よ」

 

 

 女の子は飛び起きた。わたしの姿を認めると、安堵したようだった。

 

 

「おなかすいたでしょう? こちらへいらっしゃい」

 

 

 ゆっくりベッドから降りると、女の子は近寄ってきた。

 

 

「あなたのお名前は?」

 

 

「・・・」

 

 

 黙って首を横に振っている。口止めされているのかしら。こういうときは、無理に聞き出さない方がいい。わたしは女の子の長い髪が乱れていることに気が付いた。

 

 

「いいわ。言いたくなければ言わなくてもいいのよ。ねえ、髪を結ってあげましょうか」

 

 

 女の子は笑顔でうなずいた。わたしもついうれしくなった。女の子らしいか細くてまっすぐな髪。わたしは女の子の髪をブラシでときながら、母の面影を思い出していた。自分もこうして母に髪を結ってもらうのがとても好きだった。

 

 

「おさげ髪は、いつも誰に結ってもらっているの?」

 

 

「ママに」

 

 

「そう、じゃあ、ママがしてくれるのと同じおさげ髪でいいわね?」

 

 

「うん!」

 

 

 女の子はうれしそうにうなずいた。三つ編みを編んで白いリボンを結んだ。女の子って、本当かわいい。リュウもそう言ってたわね。リュウも子どものことをかわいいと思える人なんだと思うと、わたしの胸は弾んだ。

 

 

「できた!」

 

 

 女の子の後ろ姿は完璧。わたしは前へと回った。うん、上出来。わたしは得意げな顔になっていた。それにしてもこの子、わたしに似てるってリュウは言ってたけれど、そうかも・・・。髪質とか眉毛のあたりとか・・・。

 

 

「あの、これも」

 

 

 はにかみながら、女の子は赤い髪留めを差し出した。

 

 

「そうだったわね。どこにつけようかしらね」

 

 

「パパと同じように」

 

 

「パパ?」

 

 

 思わず目を丸くした。ばつが悪そうに女の子も首をすくめている。このことも、秘密のことなのかしら?

 

 

「・・・お守りなの。パパがいつも守ってくれるようにって、ママがつけてくれたの」

 

 

「そ、そうだったのね。じゃあ、つけてあげなくちゃね」

 

 

 でも、パパと同じようにって言われてもね・・・。昨日のイメージでいいかしら。うん、かわいくできた。

 

 

「お守り、本当だった。パパはちゃんと守ってくれた。ママも」

 

 

「?」

 

 

 わたしは合点がいかずに首を傾げた。

 

 

「ママ!」

 

 

 女の子はわたしに抱き着いてきた。わたしの胸に顔をうずめて小刻みに身体をふるわせている。わたしはこの子を抱きしめた。なぜか本当にこの子のママになったような気持ちになっていた。

 

 

「ずっと、ママって呼びたかったの。でも、そうしちゃいけなかったの」

 

 

「事情を話してくれるわね?」

 

 

 女の子は本当のことを話したくてたまらないということを、わたしはこのときわかった。

 

 

「まずは、あなたの名前から聞くわ」

 

 

「リーフェン!」

 

 

「じゃあ、リーフェン、あなたはどこから来たの?」

 

 

「未来から」

 

 

「未来!?」

 

 

「うん。わたしはコンピュータプログラミングが大好きで得意だったの。ある日、知らないおじさんが来て、星をつくるプログラミングをやってみないかって言われて、やってみたら、できちゃったの。わたしはそのおじさんにここの世界へ連れて行かれちゃったの。そこには他のハッカーの人たちもいて、黒い眼鏡のおじさんがわたしに『実際に星をつくるデス』って、言ったの」

 

 

「過去から来たシャドルーが、あなたをさらって黒い月を造らせたということだったのね」

 

 

 リーフェンはうなずいた。

 

 

「かわいそうに。ずっとひとりで心細かったでしょう。未来にいるあなたのママは、このことを知ってるの?」

 

 

「うん。必ず助けるからって言ってた。転送システムは一度使うと、半年間は使えないの。だから半年たったら、元の時代に必ず戻してあげるからって。パパは、昔の俺がおまえを守ってやるから安心しろって言ってくれてたの」

 

 

 なるほど、点と点がつながったわ。シャドルーはおそらく未来にワープするテクノロジーを持っていて、未来のハッカーに黒い月を造らせて世界征服を実行させた。それならこの時代のテクノロジーではどの極秘国家機密をもってしてもあの黒い月を制御できなかったことが理解できる。

 

 

「わたしが未来から来て、パパとママの子だって、知られちゃいけなかったの。だって、わたしが生まれなくなっちゃうかもしれないから。だから、ママだけにしか言えなかったの」

 

 

「そう、ママに教えてくれてありがとう。あなたのことはよくわかったわ」

 

 

「でもね、ちょっとだけよかったなって思うことがあるの」

 

 

「どんなこと?」

 

 

「わたしのママもきれいだけど、ここのママはもっと若くてかわいくて、とってもきれいだから。それに、ここのパパもものすごくかっこよくて、本当に強くて守ってくれたから」

 

 

 リーフェンの言うことがいちいちうれしくて、愛おしく思った。

 

 

「ここのママは、まだパパと結婚してないんでしょ?」

 

 

「ええ」

 

 

「だったら、わたしがここのパパと結婚したいな」

 

 

「うふふ。パパ、とってもかっこいいもんね。でも、パパはママと結婚しなきゃあなたは生まれないのよ」

 

 

「そうだった。いいな~、ママはパパと結婚できて」

 

 

「きっとあなたを産んであげる。だから約束。このことは、わたしとあなたの二人だけの秘密にしておきましょう」

 

 

「パパにも秘密なの?」

 

 

「そうよ。パパがママにプロポーズしてくれるまでの秘密。半年後なら、あなたの方が先にいなくなっちゃうかもね」

 

 

「またここのパパに会いたい! 会える? わたしがパパの子だってことは言わないから」

 

 

「会えるわ。何度でもね」

 

 

「じゃあ、お願い。パパとデートさせて」

 

 

「ふふっ、いいわよ。ママも一緒に行ってもいい?」

 

 

「うん!」

 

 

 わたしはリーフェンを抱きしめた。

 

 

 リュウ、わたしのかわいい小さなライバルがあなたを待ってるわよ。

 

 

 あなたは気づくかしら。わたしとリーフェンのふたりだけの秘密に・・・。